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人件費の高騰にどう対応するか|利益を守る省人化の考え方と進め方

最終更新:2026.08.17 / AI参謀 編集部
人件費の高騰にどう対応するか|利益を守る省人化の考え方と進め方

最低賃金は上がり、募集をかければ以前より高い時給を提示しないと人が来ない。それでも売価はすぐには上げられず、気づけば利益だけが薄くなっている——多くの中小企業がいま直面している状況です。この記事では、給与を下げるという選択を取らずに「人件費あたりの成果」を上げて利益を守るための考え方と、その具体的な進め方を一緒に整理していきます。

⏱ 忙しい人向け 3行まとめ

  • 人件費の上昇は一時的な波ではなく構造的な変化。「いつか落ち着く」前提の資金繰りは危うい
  • 打ち手は「人件費を減らす」ではなく「同じ人件費で生む成果を増やす」。給与を下げる選択は退職と採用コストで結局高くつく
  • 順番は①業務の棚卸し → ②社内向け作業の削減(省人化)→ ③価格の見直し。省人化を先にやると、値上げの説明もしやすくなる

「そのうち落ち着く」ではなく、構造の変化として見る

人件費の話をするとき、まず切り分けておきたいのは「一時的に高いのか、これが新しい水準なのか」です。ここを取り違えると、資金繰りの前提そのものがずれます。

目安として押さえておきたいのが最低賃金の動きです。厚生労働省の中央最低賃金審議会は令和8年7月28日、令和8年度の地域別最低賃金額改定の目安を答申しました。目安どおりに各都道府県で引き上げが行われた場合、全国加重平均は1,176円、上昇額は55円(引上げ率4.9%)になります。前年度の上昇額66円・6.3%より幅は小さいものの、上げ幅が縮んだだけで、水準そのものは上がり続けています

📌

最低賃金の金額はまだ確定ではありません

上の数字はあくまで「目安」です。実際に自社に適用される金額は各都道府県の地方最低賃金審議会の答申を経て決定され、例年どおりであれば10月頃に発効します。自社の県の確定額と発効日は、必ず都道府県労働局の公式情報で確認してください。

そして経営に効いてくるのは、最低賃金そのものよりもその上に乗っている賃金全体の押し上げです。時給1,100円だったパートを1,180円にすると、もともと1,250円だった先輩との差が縮みます。差が縮めば、その人の時給も上げざるを得ません。この連鎖が、最低賃金付近で働く人がいない部署にまで及びます。

さらに、給与に連動して増えるものがあります。社会保険料の会社負担、賞与、残業単価、退職金の算定基礎——。「時給を80円上げた」で終わらないのが人件費の厄介なところです。

1,176
目安どおりの場合の全国加重平均(令和8年度)
+55
上昇額の目安(前年度は66円)

「人件費を減らす」を目標にすると、たいてい失敗する

人件費が重いとき、真っ先に思い浮かぶのは「人を減らす」「給与の伸びを抑える」という発想です。しかし今の採用環境で、この2つは高くつきます。

給与を抑えれば、動ける人から順に辞めていきます。辞めた分を採り直すには、募集費用に加えて、面接の時間、入社後に一人前になるまでの教育時間がかかります。しかも今は募集をかけても応募が来ないことが珍しくありません。「人件費を抑えた結果、もっと高い時給で採り直すことになった」という話は、あちこちで起きています。

そこで発想を切り替えます。見るべきは人件費の総額ではなく、「その人件費でいくらの粗利を生んでいるか」です。

つまずきやすい発想

人件費という「コスト」を削る。給与を抑える/人を減らす/残業を禁止する。→ 仕事量は変わらないので現場が壊れ、退職と採用コストで元に戻る。

利益が守れる発想

人件費あたりの粗利を上げる。人が担う仕事の中身を、社内向けの作業から売上を生む仕事へ移す。→ 給与を上げても利益が残る構造になる。

ここで言う「社内向けの作業」とは、やらないと業務が止まるけれど、それ自体はお客様に価値を届けていない仕事のことです。数字の転記、集計、報告用の資料づくり、電話の取り次ぎ、日報の入力、同じ質問への繰り返しの回答。これらは減らしても、売上は減りません。むしろ、そこに使っていた時間が空けば、営業や現場の品質に回せます。

利益を守る3つの打ち手と、着手する順番

人件費の上昇を吸収する打ち手は、大きく3つです。どれか一つを選ぶのではなく、順番をつけて組み合わせます。

 値上げ(価格の見直し)省人化(作業を減らす)採用の抑制
効果の大きさ大きい中〜大(積み上げ型)
効き始めるまで交渉次第で数か月1か月〜(小さく始めれば即日も)欠員が出たタイミング
リスク取引先・顧客の離反現場に使われず定着しない今いる人の負荷増・退職
説明のしやすさ根拠がないと通らない社内で完結する

おすすめの順番は「省人化 → 値上げ → 採用の抑制」です。理由は2つあります。

1つは、省人化が社内だけで完結する打ち手だからです。値上げは相手のある話で、時間も交渉力も要ります。採用の抑制は、今いる人の負荷を増やすので単独では危険です。それに対して省人化は、自社の判断だけで今日から動かせます。

もう1つは、省人化の実績が値上げの説明材料になるからです。「コストが上がったので値上げさせてください」だけでは通りにくくても、「自社でもこれだけの効率化をやったうえで、それでも吸収しきれない分をお願いしたい」と言えれば、話の重みが変わります。順番を逆にすると、この材料が手元にありません。

💡

ここがポイント

採用の抑制は「打ち手」というより省人化の結果として起きるものと捉えるのが健全です。先に人を減らすのではなく、作業が減った結果として「今回の退職者の補充は見送れる」と判断できる状態を目指します。

省人化で人件費の伸びを吸収する進め方

「省人化」と言うと大がかりな設備投資を思い浮かべがちですが、人件費の上昇分を吸収するという目的なら、まずは日々の作業時間を削るところからで十分です。次の4ステップで進めます。

  1. STEP1:吸収すべき金額をざっくり出す

    「時給の上げ幅 × 対象人数 × 想定年間労働時間」で、年間いくら増えるかを概算します。社会保険料の会社負担分も乗るので、少し多めに見ておきます。精緻な計算より、「年間◯十万円をどこかで作る」という目標に変換することが目的です。

  2. STEP2:1週間分の業務を書き出す

    部署ごとに「誰が・何に・週何時間」を書き出します。完璧を目指さず、時間を食っている順に10個で構いません。ここで「社内向けの作業」に印をつけます。

  3. STEP3:手順が決まっている作業を1つ選ぶ

    印をつけたもののうち、毎回やり方が同じ作業を1つ選びます。議事録の作成、日報や報告書の下書き、問い合わせメールの一次返信、請求書の内容の転記——このあたりが最初の候補になりやすい領域です。

  4. STEP4:1か月試して「時間」で測る

    効果は金額ではなく時間で測ります。「1件30分かかっていた作業が10分になった」「月8時間浮いた」という形です。時間が出れば、時給を掛けるだけで金額に換算できます。測り方の詳しい作り方は費用対効果の記事で解説しています。

この積み上げが効いてくるのは、時間の削減がそのまま人件費の伸びの吸収分になるからです。月20時間を削れれば、時給1,200円換算で月24,000円、年間で約29万円分の余力になります。これを2部署で実現すれば、パート1人分の賃上げをまかなえる規模になります。

🧾 経理・事務

請求書の内容の読み取り、経費の一次チェック、定型メールの作成

📞 電話・問い合わせ

営業時間外の一次受付、同じ質問への自動回答、取り次ぎの削減

📝 会議・報告

議事録の自動作成、日報・月次報告のたたき台づくり

📈 営業事務

見積書・提案書のたたき台、案件メモの整理

補助金で導入コストを抑えるという選択肢

「人件費が上がっているのに、そのうえ投資はできない」——これはもっともな感覚です。ただ、月数千円から始められるツールも多く、まとまった投資が必須というわけではありません。

そのうえで、設備をともなう省力化投資やITツールの導入については、国の補助制度が用意されています。中小企業のAI導入・省人化に使いやすい制度としては、デジタル化・AI導入補助金や省力化投資補助金があり、賃上げとセットで取り組む場合には業務改善助成金のような制度もあります。

⚠️

補助金の金額・要件は必ず最新を確認してください

補助率・補助上限・対象経費・締切は公募回や年度ごとに変わります。また、採択されることが約束された制度ではありません。この記事の内容は制度の存在と考え方の紹介にとどまります。申請を検討する場合は、必ず各制度の公式サイトの公募要領を確認するか、専門家に相談してください。制度ごとの違いと使い分けは関連記事で整理しています。

つまずきポイント

「浮いた時間」を数えずに終わってしまう

省人化がうまくいかない会社の多くは、効果が出ていないのではなく効果を測っていないだけです。時間を測っていないと、社内では「なんとなく楽になった気がする」で終わり、次の投資判断ができません。逆に「月8時間浮いた」という数字が1つ出れば、他部署への展開も、値上げ交渉の材料も、補助金の申請書に書く根拠も、そこから作れます。最初の1業務こそ、面倒でも前後の時間を記録してください。

人件費の話を「現場に伝えない」まま進める

省人化の話を経営者だけで進めると、現場には「効率化=人減らし」と受け取られます。そうなると協力は得られません。伝えるべきは、「給与を上げ続けたいから、そのぶん作業を減らしたい」という順序です。目的が自分たちの待遇を守ることだと分かれば、どの作業がムダかは現場のほうがよく知っています。

今日からできる確認リスト

よくある質問

Q. 人件費を下げるために、まず何を見直せばいいですか?

A. 最初に見るべきは給与額ではなく「業務量」です。給与を下げれば人は辞め、採用し直すコストのほうが高くつきます。まずは1週間分の業務を書き出し、社内でしか価値を生んでいない作業(転記・集計・報告のための資料づくりなど)がどれだけあるかを確認してください。そこが人件費のかかり方を変えられる余地です。

Q. AIを入れれば人を減らせますか?

A. 多くの中小企業では「人を減らす」より「増やさずに済む」効果のほうが現実的です。退職者の補充を1人見送れる、繁忙期のパート採用を減らせる、といった形で表れます。すでに人手が足りていない会社では、人員削減ではなく残業時間の圧縮として効果が出ることが多いです。

Q. 人件費が上がっているのに、AI導入にお金を使う余裕がありません。

A. 月数千円から始められるツールもあり、まとまった投資が必須というわけではありません。設備をともなう省力化投資や、ITツールの導入には補助金の制度もあります。ただし制度は公募回・年度ごとに要件や金額が変わるため、最新の内容は必ず公式情報で確認するか、専門家に相談してください。

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