見積書・提案書のたたき台をAIで作る|営業事務の時短術

見積書と提案書は、営業が本来やるべき「お客様と話す時間」を静かに削っていく仕事です。1件2時間かかる提案書を月に10件書けば、それだけで20時間。この記事では、たたき台づくりだけをAIに渡して、判断と数字は人が持つという現実的な線の引き方を、そのまま使えるプロンプトとあわせて整理します。
⏱ 忙しい人向け 3行まとめ
- AIに任せるのは「文章化」と「構成」だけ。金額の計算・単価の判断・値引きの決裁は人が持つ。ここを混ぜると事故になる
- 効果が出るかどうかは、AIの性能ではなく「自社の型(項目・言い回し・見積の前提条件)が言語化されているか」で決まる
- まず過去の良い提案書3本をAIに読ませて型を抜き出すところから。ツール選びより先にやることがある
見積書・提案書のどこに時間がかかっているのか
「見積書の作成に時間がかかる」と言うとき、実は中身がかなり違います。まずここを分けないと、AIを入れても効きません。
| 時間がかかっている場所 | 作業の中身 | AIとの相性 |
|---|---|---|
| ①条件のヒアリング・確認 | お客様に仕様・数量・納期を聞き直す。社内の担当に在庫や工数を確認する | △(整理は手伝えるが、確認そのものは人) |
| ②単価・原価の算出 | 仕入価格、工数、過去実績から金額を決める | ×(AIにやらせない) |
| ③書類への清書・体裁 | フォーマットに落とし込む、項目名を整える、備考を書く | ◎(最も効く) |
| ④提案文・背景説明の文章化 | 「なぜこの構成か」「導入後どうなるか」を文章にする | ◎(最も効く) |
| ⑤過去案件の掘り起こし | 似た案件の見積を探して参考にする | ○(社内データを読める仕組みがあれば) |
ここで大事なのは、②だけは絶対にAIに渡してはいけないということです。生成AIは計算機ではなく、もっともらしい文章を作る道具です。数字も「もっともらしく」出してきます。合計金額が1桁違っていても、見た目は完璧な見積書ができあがる——これが最も怖い失敗パターンです。
金額の計算は表計算ソフトに、文章は生成AIに
単価×数量、消費税、値引き後の合計——こうした計算は、これまでどおりExcelや見積システムの計算式に任せてください。生成AIの役割は、「計算済みの数字を、読みやすい書類の形に整える」ところから先です。この役割分担を最初に社内で握っておくと、事故がほぼ起きません。
逆に③④は、AIが最も得意な領域です。「何を書くかは決まっているが、文章にするのが面倒」という作業は、まさに生成AIの守備範囲。営業事務が1件30分かけて整えていた提案文の下書きが、5分の手直しで済むようになる——このあたりが現実的な効果の目安です。
AIに任せる範囲と、人が持つ範囲
実務で線を引くなら、次のように整理すると迷いません。
・提案書の構成案(見出しの並び)を出す
・箇条書きのメモを提案文に整える
・見積の備考・前提条件の文章を整える
・お客様の業種に合わせて言い回しを調整する
・同じ内容を「経営者向け」「実務担当者向け」に書き分ける
・誤字脱字・表記ゆれのチェック
・単価・原価・値引き率の決定
・合計金額の計算と検算
・納期の約束
・「できます」と言ってよいかの判断
・保証・責任範囲の記載
・最終的な送信ボタン
この線引きを一文にすると、「約束になることは人、説明になることはAI」です。金額・納期・保証は約束であり、間違えれば会社が責任を負います。一方、「なぜこの構成をおすすめするのか」「導入するとどう変わるのか」は説明であり、下書きをAIが書いても、人が読んで直せば十分に成立します。
ありがちな失敗:出てきた文章をそのまま送ってしまう
AIが書いた提案文には、実績のない数字や、自社が提供していないサービスが自然に紛れ込むことがあります。とくに「◯%の効率化を実現します」「導入企業◯社」といった表現は要注意です。書いた覚えのない数字が入っていないか、送信前に数字だけを目で追う——これを社内ルールに1行入れておいてください。
そのまま使えるプロンプト
ここからは実際に使える形で載せます。自社の言葉に置き換えて、社内で共有してください。
①提案書のたたき台を作るプロンプト
あなたは当社の営業担当を支援するアシスタントです。以下の情報をもとに、お客様に提出する提案書の下書きを作成してください。
【提案書の構成】
①ご提案の背景(お客様の課題の確認) ②ご提案内容の概要 ③具体的な内容 ④導入後の流れ ⑤ご留意事項
【条件】
・金額は記載しない(別紙の見積書で示すため)
・入力していない情報は推測で補わず「(要確認)」と記載する
・数値や実績は、入力された内容以外を書かない
・断定的な効果保証の表現(必ず・確実に・◯%削減できます)は使わない
・専門用語には短い補足をつける
・全体で800〜1,200字程度
【お客様の情報】
業種: / 規模: / ヒアリングで聞いた課題:
【提案する内容】
(箇条書きで貼り付ける)
②見積書の備考・前提条件を整えるプロンプト
以下の見積内容について、見積書に記載する「前提条件・備考欄」の文章を作成してください。
【条件】
・金額は書かない(別欄に記載するため)
・「何が含まれ、何が含まれないか」が読んで分かるようにする
・有効期限、支払条件、納期の起算点について、入力がある項目だけ書く
・入力のない項目は書かない
・箇条書きで、1項目1文
【見積の内容】
(品目・数量・作業範囲を箇条書きで貼り付ける)
【今回の前提】
(例:現地調査は別途/既存データの移行は含まない/有効期限30日 など)
備考欄は、後々のトラブルが最も起きやすい場所です。「言った・言わない」を防ぐ一文が抜けていることが多く、しかも忙しいときほど手が回らない。AIに毎回きちんと書かせることで、担当者による品質のばらつきが減る——これは時短以上に効く副次効果です。
③自社の「型」を抜き出すプロンプト(最初にこれをやる)
以下は、当社が過去に作成し、実際に受注につながった提案書です。この3本に共通する構成・言い回し・記載項目を分析し、当社の提案書テンプレートとして整理してください。
【出力してほしいもの】
①見出しの標準構成 ②各セクションで必ず書いている内容 ③よく使っている言い回し ④3本とも書いていない(=抜けがちな)項目
【過去の提案書】
(提案書1)〜(提案書3)をここに貼り付ける ※顧客名・金額はマスキングする
効果を出すために、ツール選びより先にやること
「どのAIツールがいいですか」と聞かれることが多いのですが、この用途に関しては、ツールの差より自社の準備の差のほうがはるかに大きいのが実感です。順番はこうなります。
過去の「良かった提案書」を3本選ぶ
受注できた案件、お客様の反応が良かった案件から選びます。完璧でなくて構いません。この3本が、あとで全社の型になります。
顧客名・金額をマスキングして、型を抜き出す
上のプロンプト③を使います。ここで出てくる「3本とも書いていない項目」が、自社の弱点です。抜けがちな前提条件はここで見つかります。
抜き出した型を、1枚のテンプレートにまとめる
AIの出力をそのままにせず、人が読んで直します。この1枚が資産になります。ツールを乗り換えても、この1枚は残ります。
テンプレートを組み込んだプロンプトを共有する
営業一人ひとりがゼロからプロンプトを書くのではなく、会社が用意した1つのプロンプトを全員が使う形にします。品質のばらつきが一番減るのはここです。
2週間使って、直す
「毎回同じ箇所を手直ししている」なら、その修正内容をプロンプトに書き足します。使いながら育てるのが前提です。
この順番を飛ばして、いきなり「AIで提案書を作って」と各自に投げると、担当者ごとに違う体裁の提案書が量産されるという、以前より悪い状態になりかねません。効率化のつもりが、チェック工数を増やしてしまうわけです。
社内データを読ませたい場合は、また別の話になります
「過去の見積を検索して似た案件を出してほしい」「商品マスタを見て正しい型番を書いてほしい」といった使い方は、自社データをAIに参照させる仕組み(社内AI・RAGと呼ばれます)が必要です。まずは貼り付け方式で効果を確認してから、次の段階として検討するのが順当です。
費用と効果の考え方
この用途に必要なのは、多くの場合汎用の生成AIサービス1つです。専用の見積作成AIを最初から導入する必要はありません。まずは既存のチャット型AIで、上のプロンプトを試してみてください。
効果を測るときは、金額より時間で見るのが確実です。
※上記は計算方法を示すための仮の数値です。自社の実際の件数・所要時間で置き換えてください。
注意点として、「半分になる」は最初から起きません。1〜2週間はむしろ遅くなることもあります。プロンプトを直し、型が固まってから効果が出ます。導入直後の1週間で「使えない」と判断してしまうのが、最もよくある取りやめ理由です。
補助金で導入費用を抑えるヒント
汎用の生成AIサービスだけで始める場合、月額費用は補助金を使うほどの規模になりません。ただし、次のような形に発展させる段階では、制度の対象になり得ます。
- 見積・提案の作成を含む業務システムを導入する場合 → デジタル化・AI導入補助金(旧IT導入補助金)の対象ツールに該当するかを確認
- 社内データを参照させる仕組み(社内AI)を構築する場合 → 導入内容によって対象制度が変わるため、支援事業者と要件を確認
- 営業事務全体の省人化として設備・システムを入れる場合 → 省力化投資補助金の対象になるかを確認
いずれの制度も、補助率・上限額・対象経費・締切は公募回や年度で変わります。また、申請にはGビズIDプライムの取得が必要で、取得には日数がかかります。検討する場合は、必ず各制度の公式サイトと最新の公募要領で確認し、判断に迷う点は支援機関や専門家にご相談ください。
つまずきポイント
①「AIに作らせた」ことを隠そうとして、確認が甘くなる
社内で「AIを使った」と言いづらい空気があると、担当者が黙って使い、誰のチェックも通らずに送られます。逆です。「たたき台はAIで作ってよい。ただし数字と約束は必ず人が確認する」と会社が明言するほうが、事故は起きません。使用を禁止するのではなく、確認の工程を決めてください。
②顧客の情報をそのまま貼り付けてしまう
提案書の下書きを作るには、お客様の課題や状況を入力する必要があります。ここで顧客名・担当者名・金額・図面・契約書の文面をそのまま貼るかどうかは、会社として先に決めておくべき論点です。「入れてよい情報・いけない情報」を1枚にまとめて配ってから使い始めてください。使い始めてから決めるのでは遅くなります。
よくある質問
Q. AIに見積金額まで計算させてはいけないのですか?
生成AIに合計金額の計算をさせるのは避けてください。生成AIは計算専用の道具ではないため、単価×数量や消費税の計算で誤った数字を、もっともらしい体裁で出力することがあります。金額の算出はこれまでどおり表計算ソフトや見積システムの計算式に任せ、生成AIには「計算済みの数字を書類の文章に整える」役割を持たせるのが安全です。なお、表計算ソフト側のAI機能で数式を作らせる場合も、必ず人が検算してください。
Q. 提案書がどれも似た文章になってしまいませんか?
プロンプトが汎用的すぎると、その傾向は出ます。対策は2つあります。1つは、自社の過去の提案書から抜き出した「型」と言い回しをプロンプトに組み込むこと。もう1つは、ヒアリングで聞いた具体的な情報(お客様が口にした言葉、現場で見た状況)を入力に含めることです。入力が具体的であるほど出力も具体的になるため、似た文章になる原因は多くの場合、入力の薄さにあります。
Q. 営業がITに強くないのですが、定着しますか?
各自にプロンプトを書かせようとすると、まず定着しません。会社側で1つの完成したプロンプトを用意し、「【 】の中身を入れ替えるだけ」の状態にして配るのが確実です。あわせて、最初は営業事務や内勤の担当者が代表して使い、出来上がった下書きを営業に渡す形から始めると、負担なく回り始めることが多いです。全員が使えるようになるのは、効果が見えてからで構いません。
「人が足りないのに、何から手をつければいいか分からない」——そんな時は。
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